【2月5日発】 iPS細胞の火を消すな!  武田と京大の成果を育てるのは政府、国民だ

 武田薬品工業が京都大学iPS細胞研究所との産学共同研究(T- CiRAプログラム)から25年度末で手を引く。非常に複雑な思いだ。iPS細胞は画期的かつ偉大な発見だが、そもそも臨床応用にはいつものハードルがあり、そう簡単ではない。医薬品、医療技術は基礎から臨床応用につなげるまで膨大な時間と資金を要する。iPS細胞も当初からそういわれていた。10年前(2016年)、そこに武田が手を差し伸べた。しかし、新薬や治療技術など臨床的な果実を手にするまでには至らず。今回、手を引くことになった。武田に対しては「一企業でよくぞこれまで続けてきた」と賛辞を贈りたい。しかし、一方、

研究者側からすれば「10年では短い」というだろう。

◆統括イベントで「終了発表」

 年明け早々、武田広報から「2月3日にこれまでの共同研究成果を統括するイベントを開く」と御案内いただいた。のほほんと行ってみたら、「25年度をもって共同研究を終了する」とのことで、不意を突かれた感じだった。

 イベントには武田のクリストフ・ウェバー社長、iPS細胞の生みの親で京大側のリーダー、山中伸弥教授も参加され、主催者席にいらした。やはり双方とも、どこかしんみりしたように見えた。

 

◆ウェバー社長で始まり

  ウェバー社長で終わった

 

 共同研究はクリストフ・ウェバー社長が山中教授を訪れ、一対一の面談で決まった。ウェバー社長が「大、中、小、どの規模が良いか」と問いかけ、山中教授が「大でお願いします」と即座に回答、わずか数か月で契約に至り、16年度からスタートした。

 始まりはウェバー社長の強いリーダーシップ、文字通り「鶴の一声」だったのだ。

 計画は26年度までの10年、武田が毎年20億円、合計200億円を投じるというものだった。一企業の基礎研究投資額としては巨額だった。

 

 研究機関が生み出した多くの基礎研究は、実用化、収益化を重視する企業への「橋渡し」ができず、双方間にある「死の谷」に落ちて埋もれていく。

 

◆山中教授は

 最後まで継続した武田に「深く感謝」

 「私が06年にiPS細胞を報告してすぐに臨床応用に大きな期待をいただきました。しかし、iPS細胞も遅かれ早かれ、やはり“死の谷”に直面すると痛感した。その時、大きなチャンスをいただいたのが武田だった」と山中教授は振り返る。

 しかし、当然だが製薬企業の戦略は変わる。

共同研究がスタートしてすぐ武田は「循環器」「糖尿病」から撤退。「がん」「消化器」「中枢神経系」などに絞り込むと決断した。

 

「循環器」「糖尿病」は共同研究プロジェクトの柱にもなっていた。

 山中教授はこの時、「ああもうT‐CiRA(共同研究プログラム)もストップしてしまうのかなと覚悟した」という。

 しかし、ウェバー社長は「T‐CiRAは別だ」と力強く回答、予定通り10年間の計画をやり遂げた。

 

「武田には非常に感謝している。これ以上、無理難題を言い付けることはできない。共同研究で、いくつかのベンチャーもできた。これからは独立して自らお金を集めてやっていく時期だ」と山中教授は言う。

 

 クリストフ・ウェバー社長も「T‐CiRAは今回で中止したが、今後また細胞療法に戻って来ないとは限らない。将来的には、(戻ってくるという)オプションもあり得る」と語った。

 

◆リアルなウエバー社長の勇姿に

 お会いできるのは今回で最後か。。。。。。

 ウェバー社長は今年6月で退任。ジュリー・キム氏(現U.S.ビジネスユニットプレジデント)にバトンを渡す予定になっている。T‐CiRAはウェバー社長で始まり、ウェバー社長で幕を閉じる。もしかしたら、今回のイベントで、リアルな姿を目にかかれるのは最後にだった知れない。色んなことがあったが、「型破り」でパワフルな方だった。そう思うと感慨深い。

 

◆資金をどう集めるか 

 臨床応用まではいかなかったとはいえ、T- CiRAプログラムからはいくつもの新技術が生み出された。

武田が引き継いだものもあるし、新たなベンチャー企業もできた。アカデミアで継続するものもある。

 

 当然、今後の課題はどうやって、どこから資金を集めるかだ。

 

 基礎研究から臨床応用への橋渡しは、本来、政府など公的機関が力を入れるところだ。とは言え、日本政府、国民ともそれほど関心を注いでいない。

 今、衆院選まっただ中で、与野党の論戦が続いているが「基礎研究の充実」「臨床への御橋渡し」などを公約に掲げる政党は皆無だ。地味だが、実は日本の国力を支える重要なテーマにもかかわらず、一般受けしないから後回し、棚ざらしなのだ。

 由々しきことだ。私は、専門ジャーナリストとして細々とだが、松明を掲げ続けたい。

 最後に山中教授が放った言葉で今回は締めくくりたい。

 「アカデミアの私たちとしては、何が何でも研究を続けたい。その先に患者さんが待っているプロジェクトであれば、石にしがみついてでも続ける。 個別ベンチャーで、あるいは寄付、また、海外含め政府からの資金も一生懸命集めています。諦め悪く続ける。諦めなかったものが最後に勝つというふうに信じている」

 

 

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