2025年4月の薬価改定をどうするのか―。全く見えない。現在、与野党、厚労、財務省が水面下で調整しているが、中央社会保険医療協議会薬価専門部会など公的な場での議論はなく、結論は読み切れない。会員限定ページで筆者の予測を記すが、日本は曲がりなりにも民主主義国家だ。途中経過を誰も知りえない「視界不良」を長く続けたまま、年末ギリギリになって政府が否応なく決定を下すというのは政策プロセスとして問題がある。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)のダニエル・オディ会長(ギリアド・サイエンシズ会長兼CEO)【写真右上】は11月27日の来日記者会見で「日本の薬価改定は、いつやるのか全くわからない。“予見可能性”が欠如している」と強い口調で語った。在日執行委員会のシモーヌ・トムセン委員長(日本イーライリリー代表取締役)【写真右下】も、喫緊の検討課題である25年4月改定について「11月の末になっても政府がどういう決定を下すのかわからないというのはおかしい。この10年間、毎年、こういう状況になる」と訴えた。
日本の予算は“単年度主義”で原則、翌年以降に繰り越しできない。また、日本は国民皆保険制度で
患者の免疫細胞(T細胞リンパ球)を採血で取り出し、遺伝子改変で免疫力を増強したうえで再び体内に戻してがん(現在適応は血液がん)を叩くー。CAR-T細胞療法の実施施設、実施例が日本で急速に増えている。
北海道大大学院・血液内科の豊嶋祟徳教授によると、日本の臨床現場に初めて登場した2019年の実施施設は4施設と少なかったが、24年は69施設まで拡大、年間実施件数も500人以上となった。豊嶋氏は18日に開かれたギリアド・サイエンシズ社主催のメディアイベントで「たった5年で広がり、一般治療化した」と指摘、患者に新たな治療選択を提供し、大きな福音をもたらしている現状を紹介した。ただ一方で、投与後、一定期間、重い副作用が生じるほか、無効例もある。また現在、投与は患者1人1回限り。医療費も3000万円超で高額だ。豊嶋氏はそうした現状を踏まえ、「CAR-Tは“夢の新薬”ではない。進化過程の治療法だ。(他の治療法と合わせた)全体の中で、専門医とよく相談して受けた方がいいのか、いまは受けない方がいいのか。1生1度のチャンスを大事に考えて欲しい。自分一人で考えて突っ走らないで」と注意喚起した。メディアに対しても「とてもいい薬だが、みながみな幸せになれる薬ではない。過度な期待を生まないようにご配慮を願いしたい」と述べた。
◎ギリアド・サイエンス社作成の「CAR-T細胞療法」紹介映像「サイボリウム」
CAR-T療法はB細胞リンパ球に
財務省が11月13日、所管審議会(財政制度等審議会 財政制度分科会)に25年4月の薬価改定(引き下げ)を「原則全ての医薬品を対象に実施すべき」という考えを示した。
国家予算の「削り屋」省庁だから厳しくても仕方がない。毎年、製薬業界が簡単にキャッチできない(受け入れられない)程、高くて遠いボールを投げつけてくる。その実、財務省だって自らの主張がすべて実現すると思っていないだろうーー。長年、取材を続けているうちに、そんな風に考える“すれっからし”になってしまった。しかし、25年4月以降の薬価改定は、そうも言ってられない。
総額3.6兆円規模の「こども・子育て支援加速化プラン」(以下、子育てプラン)実施に向けた法案が今年6月に成立、同時にプラン実施に伴う国民負担増を避けるため、「医療・介護の徹底した歳出改革」を断行することを決めた。「歳出改革」というとなんだかソフトに聞こえるが、要は「歳出抑制」だ。当然、薬価、診療報酬もターゲットになる。子育てプランは段階的に実施され、2028(令和10)年度に完成する。少なくとも薬価、診療報酬は、プランが完成する向こう4年間、厳しい風にさらされる。製薬業界は診療報酬改定のない年の薬価改定(いわゆる中間年改定)を「廃止もしくは延期すべき」と訴えているが、実現のハードルは一層、高くなっている。
厚労省の伊原和人事務次官は25年4月の中間年改定についてこう言っている。
「薬価と実勢価に乖離があるのに見直さないと、(その分、医療保険給付額が高いまま維持され)保険料(国民負担)に
日本イーライリリーが9月に承認を得た早期アルツハイマー型認知症の進行抑制薬ケサンラ(ドナネマブ)が年内に発売となる見通しだ。現在、厚労省の中央社会保険医療協議会が医療保険で支払う薬価と、最適使用を推進するためのガイドライン(最適使用推進GL)を審議しており、近く結論を出す。日本では同じ適用でエーザイとバイオジェンが共同開発したレケンビ(レカネマブ)が先行承認され、昨年末から臨床現場で使われている。ケサンラが登場すれば国内で2つ目の薬剤となる。
ケサンラ発売後、両薬の使い分けはどうなるのかーー。医療現場、患者、家族、国民の関心は、これまで以上に高まっていくだろう。当然、情報発信するメディアの責任も重くなる。発信の際、最も注意しなければならない点が2つある。ひとつは、いずれもアルツハイマー型認知症の「進行を遅らせる」薬であって、完全に「治す」薬ではないという点。そしてもうひとつは症状が軽い「早期」のみが対象で「中度」「重度」の患者には使えないという点だ。この点を軽視もしくは曖昧にしたままの“過剰発信”は、患者、家族、国民に誤解を与え、医療現場に混乱をもたらす。
さて前置きはこれくらいにして今回は、2つ薬剤の特性についてレポートする。
大塚ホールディングス(大塚HD)、大塚製薬は、10月31日開催した両社取締役会において、2025年1月1日付で大塚HDの代表取締役社長兼CEOに井上眞代表取締役COO【写真左】が昇格、樋口達夫代表取締役社長兼CEOが取締役相談【同右】に就くトップ交代を決議した。樋口氏は大塚製薬の代表取締役会長から代表権のない取締役会長になる。井上氏は、31日の記者会見で医薬品事業とニュートラシューティカルズ(NC)事業を合わせたウェルビーング事業としての発展を目指すとした。また、大塚の独自性をさらにグローバルにも展開するとし、すでに米国での両事業間の調整に乗り出したことを明らかにした。※この原稿は、業界OB「ShinOM」さんにご執筆いただきました。
アステラス製薬が5年ほど前から積極的に進めていたAI(人工知能)を使った創薬(以下AI創薬)で成果が出始めた。AIとロボット技術をフル活用したSTING阻害薬(自己免疫系疾患治療薬)「ASP5502」が従来にないスピードで9月に第Ⅰ相(PⅠ)試験入りを果たした。ただ、ここに至るまで、いくつかの“工夫”を凝らしている。「単にAIを作って導入しただけでは研究者は使わない」(志鷹義嗣専務担当役員・研究担当)。「AIで化合物をデザインして、研究者に渡しても“こんなの僕はやりたくない”となる」(角山和久デジタルXリサーチX)――。要は、生身のヒトであって実経験を積んだ研究者とAIをいかに近づけ、作業を融合させるかが重要なのだ。その点、AI創薬に取り組む同業他社も同じだろう。では、アステラスは具体的にどんな工夫を凝らしたのかーー。
一般、専門メディアで、ここ数年、「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を聞かない日はない。新型コロナ感染症のパンデミックを機に「今後、急速に進む」と煽るような発信も多い。とりあえず、医療DXと言っておけば、何か発信している気になるのだろうか。かつて医療、製薬業界でEBM(Evidence‐Based Medichine)という言葉が流行った。しかし、時の経過ともに、空洞化し、バズワード化し、うわっ滑りし、やがてメディアは乱用を止めた。散々使って、使い飽きたから、読者の目を引き留めるために次の流行語、バズワードに移ったのだ。EBMは大事で、当然、いまも医療用語として存在する意義、価値は十分ある。しかし、バズワード化したら意味がない。本質からどんどん離れていくからだ。新用語のバズワード化を避けるには一体、誰のため、何のためのものかーー。そこを常に問い続ける必要がある。今、各種メディアに溢れる「医療DX」も、かつてのEBMと同じ道を辿るのではないかと危惧を抱いている。