
◆厚労省 全景
25年4月の薬価改定をどうするかー。11日、中央社会保険医療協議会薬価専門部会で製薬業界の意見陳述があった。診療報酬改定のない谷間年の、いわゆる中間年改定。21、23年に実施され、今回は3回目になる。意見陳述で、製薬業界は一部の医薬品供給が滞っている現状から「実施する状況ではない」と主張。これを受け医療保険の支払い側は「薬価差が生じている以上、国民負担軽減に向け実施すべき」と打ち返すー。立場の違いを反映した絵にかいたような構図だった。しかし、これは前回、前々回改定前の議論も同じだ。客観情勢を踏まえれば
2025年4月の薬価改定をどうするのか―。全く見えない。現在、与野党、厚労、財務省が水面下で調整しているが、中央社会保険医療協議会薬価専門部会など公的な場での議論はなく、結論は読み切れない。会員限定ページで筆者の予測を記すが、日本は曲がりなりにも民主主義国家だ。途中経過を誰も知りえない「視界不良」を長く続けたまま、年末ギリギリになって政府が否応なく決定を下すというのは政策プロセスとして問題がある。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)のダニエル・オディ会長(ギリアド・サイエンシズ会長兼CEO)【写真右上】は11月27日の来日記者会見で「日本の薬価改定は、いつやるのか全くわからない。“予見可能性”が欠如している」と強い口調で語った。在日執行委員会のシモーヌ・トムセン委員長(日本イーライリリー代表取締役)【写真右下】も、喫緊の検討課題である25年4月改定について「11月の末になっても政府がどういう決定を下すのかわからないというのはおかしい。この10年間、毎年、こういう状況になる」と訴えた。
日本の予算は“単年度主義”で原則、翌年以降に繰り越しできない。また、日本は国民皆保険制度で

◆北海道大学大学院の豊嶋崇徳教授
患者の免疫細胞(T細胞リンパ球)を採血で取り出し、遺伝子改変で免疫力を増強したうえで再び体内に戻してがん(現在適応は血液がん)を叩くー。CAR-T細胞療法の実施施設、実施例が日本で急速に増えている。
北海道大大学院・血液内科の豊嶋祟徳教授によると、日本の臨床現場に初めて登場した2019年の実施施設は4施設と少なかったが、24年は69施設まで拡大、年間実施件数も500人以上となった。豊嶋氏は18日に開かれたギリアド・サイエンシズ社主催のメディアイベントで「たった5年で広がり、一般治療化した」と指摘、患者に新たな治療選択を提供し、大きな福音をもたらしている現状を紹介した。ただ一方で、投与後、一定期間、重い副作用が生じるほか、無効例もある。また現在、投与は患者1人1回限り。医療費も3000万円超で高額だ。豊嶋氏はそうした現状を踏まえ、「CAR-Tは“夢の新薬”ではない。進化過程の治療法だ。(他の治療法と合わせた)全体の中で、専門医とよく相談して受けた方がいいのか、いまは受けない方がいいのか。1生1度のチャンスを大事に考えて欲しい。自分一人で考えて突っ走らないで」と注意喚起した。メディアに対しても「とてもいい薬だが、みながみな幸せになれる薬ではない。過度な期待を生まないようにご配慮を願いしたい」と述べた。

◆ギリアド・サイエンス社のイベントに登壇した俳優、佐野史郎氏、「CARーTはお守り」
◎ギリアド・サイエンス社作成の「CAR-T細胞療法」紹介映像「サイボリウム」
CAR-T療法はB細胞リンパ球に

◆厚労省の伊原和人事務次官
財務省が11月13日、所管審議会(財政制度等審議会 財政制度分科会)に25年4月の薬価改定(引き下げ)を「原則全ての医薬品を対象に実施すべき」という考えを示した。
国家予算の「削り屋」省庁だから厳しくても仕方がない。毎年、製薬業界が簡単にキャッチできない(受け入れられない)程、高くて遠いボールを投げつけてくる。その実、財務省だって自らの主張がすべて実現すると思っていないだろうーー。長年、取材を続けているうちに、そんな風に考える“すれっからし”になってしまった。しかし、25年4月以降の薬価改定は、そうも言ってられない。
総額3.6兆円規模の「こども・子育て支援加速化プラン」(以下、子育てプラン)実施に向けた法案が今年6月に成立、同時にプラン実施に伴う国民負担増を避けるため、「医療・介護の徹底した歳出改革」を断行することを決めた。「歳出改革」というとなんだかソフトに聞こえるが、要は「歳出抑制」だ。当然、薬価、診療報酬もターゲットになる。子育てプランは段階的に実施され、2028(令和10)年度に完成する。少なくとも薬価、診療報酬は、プランが完成する向こう4年間、厳しい風にさらされる。製薬業界は診療報酬改定のない年の薬価改定(いわゆる中間年改定)を「廃止もしくは延期すべき」と訴えているが、実現のハードルは一層、高くなっている。
厚労省の伊原和人事務次官は25年4月の中間年改定についてこう言っている。
「薬価と実勢価に乖離があるのに見直さないと、(その分、医療保険給付額が高いまま維持され)保険料(国民負担)に

◆日本イーライリリーのメディアセミナー(10月29日開催)風景。古和久朋神戸大教授・認知症予防推進センター長(右)、片桐秀晃日本イーライリリー・ニューロサイエンス領域本部本部(中)、小森美華同医薬部長(左)
日本イーライリリーが9月に承認を得た早期アルツハイマー型認知症の進行抑制薬ケサンラ(ドナネマブ)が年内に発売となる見通しだ。現在、厚労省の中央社会保険医療協議会が医療保険で支払う薬価と、最適使用を推進するためのガイドライン(最適使用推進GL)を審議しており、近く結論を出す。日本では同じ適用でエーザイとバイオジェンが共同開発したレケンビ(レカネマブ)が先行承認され、昨年末から臨床現場で使われている。ケサンラが登場すれば国内で2つ目の薬剤となる。
ケサンラ発売後、両薬の使い分けはどうなるのかーー。医療現場、患者、家族、国民の関心は、これまで以上に高まっていくだろう。当然、情報発信するメディアの責任も重くなる。発信の際、最も注意しなければならない点が2つある。ひとつは、いずれもアルツハイマー型認知症の「進行を遅らせる」薬であって、完全に「治す」薬ではないという点。そしてもうひとつは症状が軽い「早期」のみが対象で「中度」「重度」の患者には使えないという点だ。この点を軽視もしくは曖昧にしたままの“過剰発信”は、患者、家族、国民に誤解を与え、医療現場に混乱をもたらす。
さて前置きはこれくらいにして今回は、2つ薬剤の特性についてレポートする。